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【書評】『残酷すぎる成功法則』エリック・バーカー

3つ前の記事にも書いたのだが、『残酷すぎる成功法則』という本が結構な面白本だったので簡単に記す。 

残酷すぎる成功法則

残酷すぎる成功法則

 

 

もともと、監修の橘玲さんの本は結構好きで何冊か読んでいたのだが、その橘玲さんが監修したと2017年くらいのブログに記載しており、なんとなく頭の隅に引っかかっていた本だったのだ。

 

www.tachibana-akira.com

 

それを何故1年半後に突然読んだのかというと、AmazonのPrime Readingで無料で読めたからである。手に取るハードルが恐ろしく下がった。現金なものだ。

 

 

内容の要約としては以下のような感じ。

・「成功者になれる」「幸福になれる」という自己啓発本はかなり多いが、それらはほとんど著者の個人的な体験や思い込みをもとに書かれていて証拠(エビデンス)がない。

・「成功」や「幸福」といったものは、以前は科学の対象になっていなかったが、今は進化心理学行動経済学などの科学の対象として研究されている。

・本書は、玉石混交の成功法則を、最新の研究を例としてあげつつつ、エビデンスをもとに検証して、「成功者は優秀?」「内向的、外交的どちらが成功に近い?」「やりぬく力ってどういうこと?」などのテーマを掘り下げている。

 

個人的には、これまで読んで面白かった

『予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』ダン・アリエリー著

『ファスト&スロー』ダニエル カーネマン著

『選択の科学』シーナ・アイエンガー

などの行動経済学進化心理学の内容がちりばめられており、大好きなテーマなので夢中で読んでしまった。

 

この書籍の秀逸な点は3点。

 

1.エッセンスの抽出と信憑性、多面的視点のバランス

上記で出したような、研究者が一般向けに出した行動経済学の書籍などは、非常に説得力もあり面白いのだが、ハードカバー400Pにびっしりと最新の実験結果や、補強するための学説、理論の詳細が書かれているため、どうしても間延びしてしまう。なんなら途中で読むのが苦痛になってしまう箇所があったりもする。

その点、本書はエンターテイメントとしてそれらの本の一番面白い部分を抽出して、純粋に「成功するため」という視点で切り取って並べてあるので、すらすら読める。また、それだけだと内容の浅い本になってしまうが、ちゃんと学説や実験内容もかいつまんで補足しており、かつ一方からの視点だけでなく、必ず複数からの視点の考察が含まれており、バランス感覚が素晴らしい。

 

2.どうすべきかまで記載している

最新の学説の羅列だけでも科学エッセイの本としては成立していると思うが、それらの学説を踏まえて、どのように行動すべきかを後半で記載しており、一般論でもなく、理想論でもなく、現実に即して記載している点がとてもよかった。

本書はもともと著書の人気ブログを書籍化したものなので、著者が多くの心理学者や経済学者、研究者、ビジネスマンと接している中で、本気で成功のエッセンスをつかみたい、それをシェアしたいとスタートしたこともあるのだろう。

Kindleで読みながら面白かった箇所にラインを引いていたのだが、読み終わったあとにノートに写して実際に行動に移してみようと思ったのは久しぶりだった。

 

3.日本語での訳文がとにかく読みやすい

海外で書かれたものを日本語に翻訳する場合、英語特有のまどろっこしい言い方をそのまま翻訳しているケースが多く、どうしても違和感を感じてしまうことがある。また、単純に文章のリズムが切れてしまったりしている本も多い。

この本の訳文は驚くほどに自然で、読みながら目が滑ってしまうようなことが無かった。小説であれば翻訳文体もそれ自体が味となっている場合もあるかと思うが、自然科学系やノンフィクションは読みやすいかどうかで本の感想もかなり変わってくるので、ノンストレスで読める本書は貴重だと思う。

 

 

非常に面白い本だったのだが、タイトルだけは良くないと思う。

『残酷すぎる成功法則』とあるが、露悪的すぎて内容を誤解して読まない人も多いのではないだろうか。(原題は、『Barking Up the Wrong Tree』お門違いをする;見当違いをする という意味らしい)

内容はいたって健全だし、なんというか、読んでいて著者のユーモラスで暖かな人間性も伝わってくるような内容なので、単純にマッチしていない。監修者の橘玲氏も露悪的なタイトルが多い人なので、その人にあやかって編集側が付けたタイトルのような気がする。

 

 

良い本と出合うというのは最高である。