太陽の下で笑う。

うまいものはうまい。

映画『ノマドランド』を観る。

先々週の日曜日、子供の寝かしつけと晩飯、家事が思いのほか早く終わり、ぽっかりと時間が空いたのでずいぶん久しぶりに映画を観ることにした。今年のアカデミー賞で話題となった、フランシス・マクドーマンド主演の『ノマドランド』である。

 

 
あらすじはウィキペディアより抜粋

 

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2008年、アメリカの大手証券会社の破綻に端を発する未曾有の経済危機が全世界を襲った。その影響は現役世代だけではなく、リタイア世代にも容赦なく降りかかり、多くの高齢者が家を手放すことになった。家を失った彼/彼女らは自家用車で寝泊まりし、働く口を求めて全米各地を動き回っていた。専門職での経験があったとしても、それを活かせるような職がほとんどなく、安い時給で過酷な肉体労働に従事するほかなかった。そんな不安定な状況下でも、彼/彼女らは自尊心と互助の精神を保持し続けていた。彼/彼女らは「現代のノマド」とでも言うべき存在である。

 

本作の主人公、ファーンも「現代のノマド」の1人である。ファーンはネバダ州のエンパイア(英語版)で臨時教員をやっていたが、工場の閉鎖で街の経済が大打撃を受け、そのあおりで彼女も家を手放す羽目になった。途方に暮れたファーンだったが、自家用車に最低限の家財道具を積み込み、日雇いの職を求めて全米各地を流浪する旅に出た。その過程で、ファーンは同じ境遇の人々と交流を深めていくのだった。

本作はそんなファーンの姿を通して、「現代のノマド」の実像を描き出していく。

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映画『スリー・ビルボード』で強烈に印象に残っている演技派女優のフランシス・マクドーマンドの主演映画で、社会問題のドキュメンタリー的な要素もある映画だったので、公開前から興味を持っていたのだが、コロナ禍で映画館に行きづらく、観逃していたのでAmazonPrimeでレンタルして鑑賞することができた。

 

感想としては、非常に傑作だった。

 

高齢で家を無くして自分の車でアメリカを放浪しつつ、季節労働者のようにAmazonの倉庫や国立公園、農場などで働きながらその日その日を暮らしていく人たち。なんだか物悲しい話かと思いきや、その生き方や孤独をちゃんと自分たちで肯定しつつ、お互いに適切な距離感を取りつつ独自のコミュニティを作って日々を楽しんだりと、その精神的な気高さも含めて中立的に描かれている。

 

また、この映画で僕が一番良いなと思ったのが、主人公ファーンと周囲の人との距離感、接し方についてだ。

 

この主人公は劇中で2回、通常の生活に戻れる機会があるのだが、結局は自分で選んだ車上生活という放浪の生活に戻っていく。そんな風に自分で孤独を追い求めていくと、どこか偏屈になりがちだと思うのだが、あくまで人と人が接する時はユーモアや親切心のようなものを持って、チャーミングに接しているのだ。

 

車上生活を続けていくと、お互いまたどこかですれ違うであろう同様の境遇の労働者と一緒に過ごすことも多い、その際に適度な距離感を持ちつつも親密に親切に、チャーミングに接しているのがとても素敵なのだ。お互いに自立して自由でありたいと思うからこそ、お互いに理性的に、隣人愛とマナーをもって接するという気高さを感じるのだ。


その主人公ファーンを演じたマクドーマンドの演技力というか表現力というか、キャラクター含めて本当に素晴らしい。今回、出演者は主人公ともう一人以外は実際の車上生活者が演じていたが、実際にマクドーマンド自身も車上生活を経験し、Amazonの倉庫などで働いてみたらしい。役者だけが浮いているという感じが全くなく、60代のチャーミングなんだけども芯の強いおばちゃんとしてバシッとハマっている。美人だとかそういう次元を超越した凄い役者だ。

Wikipediaで調べてみたら、この作品はマクドーマンド自身が原作のノンフィクションを読んで衝撃を受け、自分で映画化権を買い取って監督を選び制作したらしい。思い入れと根性が違う。

 

その他、思いついたことをパラパラと書いておく。

 

・もともと、雑なあらすじしか知らなかった際は、公的年金や保険などが充実していないアメリカでそういった自由な暮らしをよくやるなと思っていたが、年金が充実していないからこそ、一度貧困に陥って持ち家を失ってしまうと、賃貸の家には住めずにこういった暮らしを余儀なくされるという事情もあるらしい。劇中でも年金は毎月数百ドルとのことだった。

 

Amazonが果実や農作物の収穫と同じくらいに季節労働の一つになっているというのが凄い。11月の感謝祭からクリスマスシーズンまでがAmazonの稼ぎ時なので、その期間だけAmazonは巨大な倉庫の周辺に無料の駐車場を開放し、こういった車上生活者を低賃金で雇って配送を行っているらしい。クリスマスが終わり、新年になると労働者たちはまたアメリカ中に散らばっていくらしい。

 

・劇中にも出ていたが、こういったバンライフをメディアで紹介し、コミュニティの中心人物になっているボブ・ウェルズというおじさんがいるそうだ。その人が主催するイベントやバンライフの講習会などもやっているそうで、Youtubeやそういったイベントの収入で暮らしているらしい。

そのおじさんがバンライフの教祖的な存在となっており、「自分たちは気高く自由を選択したのだ、資本主義に溺れる前の誇り高い開拓者としてのアメリカ人の魂をとりもどすのだ」みたいなことを言っていて、なんとも不思議な気分になってしまった。このおじさんはモロに資本主義を通じて、Youtubeやブログの広告収入で暮らしているのに、それにあこがれる貧困高齢者に対して、資本主義を批判してみせているのだ。何とも皮肉な構図である。

 

アメリカという国は本当に広い。ただっぴろい荒野の一本道や巨大な国立公園が次々に出てきて、その画面に圧倒される。バンライフというものは、こういった国だからこそ成立する(あまり成立していないかもしれないが)暮らしなのだろう。ただ、乾燥したアメリカ西部だからこそできる暮らしなのかもしれない。蒸し暑い日本でそんな暮らしをすると、衛生面が結構大変そうである。

 

とかなんとか色々と考えた映画だったが、久々に自宅で一人のんびりと映画を観れて大満足であった。