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うまいものはうまい。

人類の奇跡的なバランス。『寄生虫なき病』感想。

先日読了した本が結構刺激的で面白かったので紹介。

 

寄生虫なき病』モイセズ ベラスケス=マノフ

 

アレルギーや免疫系の病気、はたまたうつ病やがんなどまでが、寄生虫や腸内細菌などのバランスを欠いたことで増えているのではないかという説を著者の命がけの体験も含めて詳細緻密に追いかけたノンフィクション。

 

著者が実際に免疫系の病気を持っており、それを克服するためにメキシコに渡り、アメリカではほぼ根絶された寄生虫に感染する。そういった自らの体験も踏まえつつ、最新の研究事例や怪しげな民間療法まで幅広い事例をあげ、寄生虫や腸内細菌、微生物などが根絶されたことによる現代病の増加について詳細に論じている。

 

寄生虫や細菌、ウイルスの不在による病の増加について、いろんな説が紹介されているのだが、人間が細菌や寄生虫の存在をベースに免疫系をコントロールしているという説は確かに納得がいく。そもそも多細胞生物自体が別の生命であったミトコンドリア葉緑体を取り込むことで繁栄しているという点からも、当たり前にあるものと共存共栄することでバランスを取っているというのは非常にわかりやすい。

現に多くの生き物で、腸内細菌やバクテリアの助けを借りて消化吸収を行っており、腸内細菌を人為的になくしたマウスなどは発育の遅れや病気になったりするリスクが増えるらしい。

人間の場合でも、抗生物質などを使用することで、必要な腸内細菌(善玉菌)が減ってしまい、そのすきに人体に害を及ぼす細菌(悪玉菌)が増えてしまい、病気となってしまうことがあるそうだ。また、細菌が腸の消化吸収を助けるというだけでなく、寄生虫や細菌、ウイルスなどの存在が、人体の免疫レベルを一番バランスのいい状態に保つための鍵になっているという説も紹介されている。そのバランスが崩れた結果、免疫系が暴走してしまい、自らの細胞を攻撃してしまうことが、アトピーやアレルギー、クローン病、脱毛症などの原因となっているとのことだ。

 

現代社会が過剰に清潔になりすぎた故に、いろんな現代病が増えているというのは皮肉ではあるが、非常に重要な視点だ。アレルギーが発症する仕組みなども多角的に論じられており、子供を持つ親として非常に考えさせられる本であった。

また、自説を強調することなく、民間の寄生虫療法の問題点などもフラットな立場で書いており、非常に興味深く読み進めることができた。

 

この本を読む前から、世の中がどんどんと潔癖になっていくことに対して違和感を感じていた。(コロナ禍でそれが一気に加速したが、その前からなんだか過剰すぎるなと思っていた)

 

トイレや風呂、住宅用の洗剤や消臭剤、日用品にいたるまで、なんでも除菌、殺菌するのが一番だと日々テレビCMで宣伝されており、安全安心な暮らしのためには身に触れるものすべてを殺菌しないといけないような風潮である。やれキーボードは便座よりも汚いとかスマホは雑菌まみれとか言っているが、キーボードから細菌に感染して病気になった人がはたして世の中に何人いるんだという感じだ。

 

風呂用の洗剤か何かで「ピンクカビを落とす」みたいな宣伝をしていたが、あれはただの酵母菌で空気中に普通に漂っており、何の害も無いものだそうだ。しかし、「ピンクカビ!雑菌が繁殖している!殺菌しないと!」といって宣伝し、新たな需要を引き起こして消費財を売ろうとしている。それって正しいのだろうか。

人も動物なのだから、雑菌やウイルスも含めた生物多様性の中で生きており、それが普通なのだから過剰に清潔にしすぎる必要もないし、過剰に恐れる必要もない気がする。そういったことも含めて共感する内容も多く、刺激的な読書体験となった。

うーん。面白かった。

 

最近また読書熱が再燃しており、面白そうな本は電子書籍でポンポンと買っている。未読本が溜まっているので、通勤で少しずつ消費していこう。(お酒を飲まなければ夜にもっと読めるのだが、なかなかお酒をやめられないのだ)