先日、仕事で上京していた父と八重洲の焼き鳥屋で久しぶりに飲んだのだが、その際に「お金の使い方」の話になった。うちの父は地方の中小金融機関に新卒で入り、結構偉いポジションまで行ったのち、定年を迎えて68歳の今は地元の社団法人で働きつつ、趣味で米作りを行っている。
父の実家は零細兼業農家で小さいころは結構貧しい暮らしをしていたようだ。しかし、僕が物心がついたころには経済的にも安定していたのだろう、父も自分で家を建てて独立し、その後はぼくら息子3人も何不自由ない暮らしをさせてもらってきた。仕事一筋で飲酒と歴史小説を読む以外ほぼ趣味らしい趣味もない父だったが、60になる年にいきなり船舶免許を取得してモーターボートを購入し、週末になると海に出て釣りをするようになった。たまに夫婦で海上ツーリングみたいなこともやっているらしい。また、最近は学生時代にはまっていた山登りを再開し、先日は北海道の利尻富士に登ってきたそうだ。70を前にしてアクティブである。
そんな父を見ていると、なんとなくこの10年くらいで「仕事をして家族を養うモード」から「人生を楽しむモード」に切り替わっているように感じる。僕はまだまだ下の子も生まれたばかりだし、ここから20年くらいは家族を養うモードが続きそうな状態ではあるのだが、結婚して子供ができ、家や車を買ったことで、ある程度ここからの人生のお金についてシミュレーションができるようになった。そんな中で有効なお金の使い方についてずっとぼんやりと考え続けていたので、父親にも聞いてみたのだ。
父親曰く、ここからしばらくは子供たちの経験や思い出のために時間やお金を使ったほうが良いよとのことだった。子供たちもあっという間に大きくなって家族で出かけることなんてなくなるんだから、その間にいろんな経験をさせておきなさいと。
確かに昔のアルバムをみても、僕が小学校のころは九州各地の遊園地や公園、キャンプ場や登山、スキーなどいろんなところに連れていってもらっていた。仕事をして家族を養いつつ、子供たちにいろんな経験をさせるってことを本当に大事にしてきたのだろう。ありがたい限りだ。それがひと段落し、子供たちも皆独立したタイミングで、こんどは自分の人生の楽しみにギアを切り替えたのだろう。
父との話と前後して、ちょうどこんな本を読んだ。
この本は、元ウォールストリートの敏腕トレーダーで超富裕層の筆者が、「死ぬまでお金を貯めこんで人生楽しまないよりは、積極的に使って経験と思い出に替えていこうぜ!」という人生哲学を自身の経験談と細かいノウハウにまとめた本である。考え方やルール、実践方法まで細かく紹介されており、よくある反対意見とそれに対する反論も明確に記載されており面白い。
・子供のために残してあげたい ⇒ 子供がおじさんや老人になって渡してどうする?今すぐ金を渡せ!
・老後の医療費が必要なんじゃないか ⇒ 怖いなら保険に入れ!
・リタイアしてからゆっくり人生を楽しみたい ⇒ どうせ老人になったらいい使い方はできないんだから若いうちに使え!
・想定よりも長生きしたらどうしよう ⇒ 長寿保険に入れ!
・将来的に余ったら寄付したい ⇒ 今困っている人に今寄付しろ!
・でも仕事も好きだし ⇒ 仕事を続けながら金を使え!
人生を充実させるには、死んだときの資産額ではなく、大切な経験や思い出がどれくらいあったかが重要だ。そして大切な経験を作るためには使い時が大事だということ。確かにその通りだ。
実際に筆者は自身の45歳の誕生日に、カリブ海のビーチを1週間貸切って家族や友人を招待し、好きなバンドやアクティビティを用意し、おそらくは数億円規模のパーティを開催したらしい。ちょっと極端な使い方だとは思うが、大好きな人たちと一番楽しめるタイミングで使おうということなのだろう。筆者はこのパーティを50歳ではなく45歳でやれて本当に良かったと書いている。50歳の時には高齢の親が亡くなっていたそうだ。
大富豪のパーティからいきなりスケールが小さくなるが、今年の6月、僕の兄弟で両親に湯布院への旅行をプレゼントした。弟のところの娘たちも参加し、皆非常に楽しそうだったし、大切な思い出になった。こういったイベントは意思を持って動き出さないとなかなか実行できないものだ。(今回も弟が何度も何度も連絡してくれてようやく実現となった) 仕事に育児にプライベートにと先延ばしにしていると、自分も親もあっという間に歳をとっていく。
子供だってそうだろう。今娘が2歳、息子がゼロ歳だが、16歳くらいになると友達との予定や部活などで家族で旅行にいく機会は無くなってしまい、あっという間に親元から巣立っていくのだ。僕も高校から年中無休のスパルタ部活に入ったせいで、16歳以降は家族で旅行なんていくこともなかった。
別に今お金が有り余っているわけではないのだが、仕事も比較的順調なので、年に数回旅行にいくくらいの余裕ならある。これまではそれを計画的に投資に回していたが、その考え方も少し変えても良いのかもしれない。家族や自分の思い出となるイベントを意思をもって作っていかないとな。
ちょっと話はズレるかもしれないが、先日twitterを眺めていて非常に納得した話。
なんかこの、『こづかい万歳』の結婚して、子どもができて、「自分以外の何かに、ならなくてもよくなって…」っていうの、なんとも言えなくて好き。諦観というか幸福というか、不思議とわかる気がする感覚。 pic.twitter.com/ujmo2dLcDg
— えりぞ (@erizomu) 2022年9月26日
若いうちはお金がないけど体力と時間だけはあり、何かをやりたい、何かになりたいとただひたすら焦っていたのだが、結婚して子供ができて「子供や家族の生活を続けていくこと」が一番の存在理由になっていくのって、むちゃくちゃいい話だと思う。何者にもなれなくとも、家族や自分の大切な思い出を作って生きていくんだという気付き。大事なことだよな。
ちなみにこの漫画、吉本浩二さんの『こづかい万歳』って作品です。いい歳したおっさん達が毎月のこづかいでつつましくも幸せに暮らしている様を紹介する気高くもバカバカしい漫画で大好きです。
定額制夫の「こづかい万歳」 ~月額2万千円の金欠ライフ~ - 吉本浩二 / 第1話 | コミックDAYS