太陽の下で笑う。

うまいものはうまい。

カンブリア紀の古代生物と興味のリンク。

 興味、好奇心がリンクしていくってのは素晴らしいことだ。

 

先月のブログにも記載したが、『タコの心身問題』という、タコの不思議な生態や、そのタコが感じる意識とはどんなものなのか?というマニアックな本を読んでおり、これが驚くほどに面白かったのだ。

 

laughunderthesun.hatenablog.com

 

感想は上の記事に記載しているのだが、僕が注目した内容を再度抜粋。

 

この本によると、タコには非常に高度な知能があるらしく

・人間を見分けて嫌いなヤツには水をかける

・ありえないほど大きな脳を持ち、それが体と脚全体に分布している

・タコはモノを使うことが出来る

・モノを使って遊ぶこともある

・体の色を自由に変えて擬態できるが、タコ自身には色を識別する能力は無い

・ピント調節、絞りの機能を持った哺乳類と同じような高度な目を持つが、

 哺乳類とは数億年前に分岐しており、別の経路で同じような目に進化した

 

上記のような高い能力を持ちつつも、寿命は2年程度しかないとのことで、進化上のバグのような生き物なのだそうな。一説によると、タコの寿命が人間並みに長かったら、文明を持っていたのではないかとも言われている。

38億年の生物の進化の中で、別の方向で進化した果てにある生物らしい。

 

タコの心身問題――頭足類から考える意識の起源

タコの心身問題――頭足類から考える意識の起源

 

 

タコに限らず、昔から生物は好きな分野である。

ここ数年は趣味として、深海生物や棘皮動物(ウニ、ヒトデ、ナマコなど)の情報をネットで漁って楽しんでいた程度だったのだが、久しぶりに知的好奇心をブルブル震わせる書籍に出会い、すっかりテンションがあがってしまった。

 

そしてその高いテンションのまま、アマゾンで関連書籍を購入したのだ。

 

眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く

眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く

 

 

タコやイカといった 頭足類は、脳や身体のスペックと比較して驚くほど高性能な眼を持っている。

しかも、哺乳類とははるかに違う種類にも関わらず、同じような機能を持った眼を別々の流れで進化させてきている。

生き物の進化にとって、眼というものは非常に重要なものらしい。

 

また、タコやイカといった頭足類の起源をたどっていくと、アンモナイトや、アンモナイトが殻を丸めていく前に生息していたとんがりコーンのような古代生物に繋がっていく。

頭足類とは、かなり古くから生息していた種類のようだ。

進化の歴史をひもといていくと、そんな頭足類もわれわれ哺乳類も、何億年か前のある時点で共通の祖先から進化の枝分かれによって分化していったはずである。

その分岐が、一説によるとカンブリア紀だったのではといわれている。

 

この本は、不可思議な古代生物の歴史の中でも最も謎に包まれているカンブリア紀の爆発※について、いろいろな角度から検証し、そのきっかけとなった出来事を解き明かした科学ミステリーである。

※わかりやすく言うと、先カンブリア紀までは単純なクラゲのような生き物や、イソギンチャクのようなぐにやくにしゃした生き物ばかりだったのだが、カンブリア紀(5億4000万年前)のわずか数百万年の間に、現在の生き物の分類に関わるすべての要素が爆発的に誕生して、生物の多様性を一気に作り出したこと。

 

 

珍妙な生物が大好きなので、ハルキゲニアやアノマロカリスなどユニークな生き物が多いカンブリア紀は注目していた。

しかし、何故そのような爆発的な多様性が生まれたのかは考えたこともなかった。

 

本書はタイトルですでにネタばれしているので特にフォローは必要ないとは思うが、眼の誕生がその爆発的な進化をもたらしたという説を打ち出している。

 

それまでの生物は、眼や視覚そのものが存在しなかったので、クラゲのように古代の海をふらふら漂って獲物にぶつかったら捕食するか、イソギンチャクのように触手を広げていて獲物が触れたら捕食するかという受動的な捕食しかできなかった。

それは、捕食される側からしても、偶然危険な生き物にぶつからない限りは捕食されないということで、実に平和な世界だったわけだ。

 

そこに、初めて眼を持った三葉虫の仲間が誕生したことで、平和なふわふわぐにゃぐにゃの暗闇の世界に、能動的に襲い掛かる捕食者が生まれたのだ。

 

その結果、ふわふわ漂っているだけでは逃げられなくなった生き物は運動能力を進化させ、ぐにゃぐにゃの生物たちは自分を守るために硬い殻を進化させた。

そして捕食者たちも、そのような獲物を捕食するための運動能力や、噛み砕くためのアゴを進化させたのだ。※

※補足しておくと、目的をもって進化させたわけではなく、そうではない生き物が淘汰される圧力が増したせいで、進化のスピードが飛躍的に上がって多様な生き物が結果的に誕生したということらしい。

 

 

 こうやって書いてみるとわかりやすい結論だが、その結論に演繹的にたどり着くために、生物の眼の構造と役割、暗闇で生きる生き物の特性、生物の進化の特性、物理学、光学などの知識をフルに動員して結論にたどり着いていく筆力が凄い。

パズルのピースを集めるように結論につながる材料を一つ一つ検証して、最後に結論に持っていく科学ミステリーとして第一級のものだと思う。

読んでいて興奮が収まらない。

 

 

そして、最後に読み終わったのが以下の本。

(以下は文庫だが、1993年に日本で発行されたハードカバーを中古で手に入れた)

ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語 (ハヤカワ文庫NF)

ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語 (ハヤカワ文庫NF)

 

 

この本が米国で書かれたのは1989年であり、現在の学説では間違っているとされている内容もあるのだが、

カンブリア紀の爆発を初めて一般向けに解き明かした科学書として異例のベストセラーとなっていたらしい。

 

本書は大きく2部構成となっている。

 

1)カンブリア紀の動物たちが発見されたカナダのバージェス頁岩に関するドキュメンタリー

・チャールズ・ウォルコットという古生物学者が発見

・しかしウォルコットの生物分類はかなり間違いが多かった

・その後、ハリー・ウィッチントンという生物学者のチームが再度検証

・小さな化石の不明瞭な情報から生息当時の姿を推測していく学術的な説明

・ウィッチントンのチームが新たな分類を確立、カンブリア紀の動物群は

 既存の生物分類にあてはまらない多様性を持っていたことを再発見

 

2)著者の主張部分

・一般的に、生物多様性は歴史が古いほど単純であり、

 現代に近づくにつれて多様性が増していくと考えがちだが、それは誤りである

・多くの生物は絶滅してしまっており、過去のほうが多様性が高かったはず

・ウィッチントンの分類によると、今ある生物の分類(動物門)は

 すべてカンブリア紀には存在しており、逆に分類できない古代生物も多いことから、

 動物の体制の多様性はカンブリア紀が一番高かったのだ

・では何故現代の生物が生き残っているのか?

・何故進化の結果、人類が誕生したのか?

・それは単なる偶然の産物ではなかろうか

 

 

正直、昔のインテリ特有のまどろっこしい表現が多く、

かつ著者の主張を何度も何度も強調されるので、

2019年の今読む本としては結構読みづらい。

 

しかし、バージェス生物群について体系的に学ぶ上では必読で、

生物のデザインを定義する分類法や、それらを限られた手がかりから解き明かしていく面白さなど、

なかなかに興味深い内容だった。

 

 

今回、タコの意識から古代生物の分類まで3冊を読み通してみたが、

久しぶりに知的好奇心に突き動かされた読書体験だった。

これが関連書籍を読む楽しさだと思う。

興味がリンクして、もっと知りたくなってくる。

 

 

また、一般向けの科学書として結構共通点も多かったように思う。

 

・単なる生物トリビアではなく、材料を集めて謎を解き明かしていく

 プロセスを詳細に記載している

・専門分野だけの知識ではなく、幅広い知識や思索が答えに近づくヒントになり得る

・科学の現場にも多くの先入観や思い込みがあり、

 それらが真実を見る眼を曇らせている

・特に、目的をもって生き物は進化している、とか、

 人間から離れている生物であるほど、下等で能力の低い生き物であるに違いない、とか、

 だんだんと多様性は増していくはずだ、とか

・すべての説は仮説であり、これからも塗り替えられていく可能性がある

 

自分でもネットの情報を調べてイメージをわかせつつ読書を進めていったが、世の中には不思議な生き物がまだまだたくさんいるし、興味のある分野があるものだ。仕事には全く関係ないが、自分の興味のままに勉強するというのも素敵なことだな。

 

 

 

3冊を読みきった記念に、東京上野の国立科学博物館に、

バージェス動物群の実物の化石を見にいってみた。

 

知識を入れた上で見る化石は震えるほど良い。 

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昔は化石には全く興味がなく、復元図の珍妙な姿のみを愛でていたのだが、

岩石の表面に現れたシミのようなものから、

古代の珍妙な生物を復元していく大きなロマンを感じる。

 

岩石のシミから現在の人類の繁栄のつながりを想定してクラクラする。

これが学びというものか。

 

あまりに興奮して、ミュージアムショップでバージェス動物群のうち

2種のフィギュアをお持ちかえり。

 

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(上)ピカイア:バージェス生物群のうち、哺乳類や爬虫類、魚類などの脊椎動物の共通の祖先なのではと言われている生物。ナメクジのようだが中央に脊索を持っているらしい。 

 

(下)オパビニア:象の鼻のような長い口吻と飛び出た5つの眼を持ち、オールのような左右のヒレを波打たせて泳いでいたとされる、現代の生物群に全くつながらない絶滅した生物。

 

5億年前の何かの偶然によって上のピカイアが生き残り、今の脊椎動物の繁栄や今の人類の歴史や科学があるのだが、数億年前のボタンの掛け違えによっては、下のオパビニアのような不思議生物が繁栄していた可能性もあるのだ。

 

 

そんなことを考えつつ居間のテレビの前に飾ったが、部屋に気持ち悪いフィギュアを飾るなと奥さんから大不評を食らってしまった。

いつの日か自分の子供が古代生物のロマンに打ち震えることを期待しつつ、これからも古代生物についてひっそりと学んでいこう。