太陽の下で笑う。

うまいものはうまい。

ヨット冒険記『ブルーウォーター・ストーリー』を読む。

先日、久々に心震える本にであった。

『たった一人、ヨットで南極に挑んだ日本人 ブルーウォーター・ストーリー』
片岡佳哉 著

 

 

あらすじは版元の舵社サイトより抜粋。

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24フィート艇で世界を巡った
シングルハンターが見た景色とは...
航海計器や通信手段が不十分だった1980年代に、たった一人で24フィート艇に乗り込み、太平洋を横断し、南米のチリ多島海、そして南極大陸を目指した筆者。
彼が見た景色とは…。すべて実話の冒険航海記。

2010年から2014年にかけてKAZI誌に連載され、人気を博した航海記「BLUE WATER STORY」。今回、単行本化されるにあたって、大幅加筆、全編にわたり再構成された。
しかも豊富な写真は全てオールカラーで、空前絶後の冒険航海を追体験できる。
ヨット航海に憧れる者にとっては心躍る一冊。

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一般の人からすると全く興味もわかないような世界の話かと思うが、僕は海洋冒険ものの話や、海上遭難や漂流などのジャンルが大好きで、見つけたら片っ端から読んでいるのだが、この本はその中でもトップクラスに興味を惹かれた本だった。

 

著者は、大学時代にヨット遊びを覚え、システムエンジニアとして就職したものの、世界一周の夢を諦めきれず、200万円ほどのお金を貯めて中古の小さな船を購入。そして仕事を辞めて職業訓練校でエンジン整備などの知識を付け、太平洋横断、アメリカ大陸を最南端まで航海し、日本人初の南極を単独航海の後、8年がかりで世界一周を成し遂げている。

 

その航海の中でも、チリ南端の多島海の航海、荒れ狂うマゼラン海峡を含むパタゴニア航海、流氷や氷山に閉じ込められるリスクを負いながらの南極での航海の内容を、著者が撮影したカラー写真を多数掲載しつつ淡々とした筆致で描いたのが本書である。

 

まず、この世界一周航海に用いた船が24フィートのヨットというのがとんでもない。僕も普段22フィートのヨットに乗っているのでわかるのだが、全長7メートルほど、マストの高さ9メートルというのは、東京湾などの湾内で乗る分には問題ないが、荒れ狂う外海では吹けば飛ぶようなサイズである。

 

最近、ニュースキャスターの辛坊さんがヨットで太平洋横断を単独で往復したことがニュースになっていたが、GPSや航海無線など最新の機器も備えた39フィート(全長12メートル強)の船で外洋航海も可能な頑丈な船である。船室も広く、中で数人が暮らせるくらいの設備が整えられている。それでも一人だけでヨットを操船して時に荒れ狂う大洋を渡り切るのは大変なことだろう。

 

この著者が乗っていた24フィートのクルーザー(ブルーウォーター24)は、とてもシンプルな船であり、船室もカプセルホテル2室分くらいの広さしかなく、ベッドも無ければちゃんと海図を広げる机のスペースも無く、およそ居住できるような船では無いのだ。そして、外洋の大波や強風に耐えられるような作りではないはずだ。実際にこのサイズの船だと、転覆したりマストを折ったりして東京湾内でも海難事故となっているケースは多い。

 

それを、コツコツと補強して数ヶ月かけて準備し、一人だけで太平洋横断をやってのけている。それだけでも大冒険である。

そして太平洋横断ができたんだからと南米最南端に向かい、詳細な海図すら無いようなチリ南部の多島海を渡って、世界一の難所と言われるホーン岬に上陸までしてしまうのだ。

 

さらに、ここまで来たんだから南極まで行ってみたいと次の目的地を定め、一度遭難して死にかけつつも2年がかりで成功させてしまう。無謀だがその情熱に心が打たれる。 

 

この冒険は特にスポンサーがついているわけでも、金持ちの道楽なんかでは決してない。何も持っていない若者が、アメリカやチリ、アルゼンチンの港町で働いて整備費と生活費を稼ぎながらこの冒険を成し遂げているのだ。まったく凄まじい執念である。

 

こんな骨太の海洋冒険記が日本にもあったんだな。通勤中に夢中に読み進めて、読み終えてしばし放心してしまった。

 

僕は外洋は未経験だが、同じヨット乗りとして本当に尊敬する。いい物語を読ませてもらった。