土曜日のはなし。
僕らのチームは江ノ島のヨットハーバーに船を置いてるのだが、今回の台風19号が関東を直撃する予報で高潮の心配もあったため、土曜日の朝一番で対策してきた。
前日から各種交通機関が計画運休を決めており、東海道線は午前10時までに運転を休止するとのこと。帰れなくなるとマズイので6時に家を出て、他のメンバーが電車で行くと言っていたので、念のために車を借りて江ノ島に向かう。
風はそこまで強くないが、運転中も時折前が見えなくなるほどの豪雨が襲ってくる。台風の到来前に事故ってもしょうがない。こんな時は急がず安全運転である。7時に片瀬江ノ島駅で他のメンバーをピックアップしてヨットハーバーに到着。
平均風速は6.5m/s。台風はまだ日本の南にあり、風もそこまで上がってないようだ。
上下雨合羽を着込み作業開始。
船台のタイヤを外し、船のカバーをしっかり掛けて、ロープを二重にして動かないように縛り直す。これで多少の暴風には耐えられるはず。
ただ、高潮となるともう防ぎようがない。過去二回ほど経験があるのだが、台風の低気圧と満潮が重なったりすると、海水面が2メートルくらい上昇したりするのだ。
そうなると、中が空洞になっているFRP製の軽いヨットは浮力に耐えきれず、ロープが切れて漂流したり、ロープを掛けている箇所に負担がかかり艇自体が破損してしまったりする。
大学時代、広島のヨットハーバーを高潮が襲い、うちのチームだけでも10艇近いヨットが被害を受けたことがある。こればっかりはどうしようも無い。
ヨットハーバーの二階デッキから眺めると、南からのうねりが相当強い。普段江ノ島沖は2〜3メートル程度の波が多いのだが、今日は12メートルまで上がっていく予報。高潮に東からの高波が重なると相当危険だ。あとは祈るのみである。
作業を終えて、雨風が強くなる前に退散。9時前には家に到着。台風前に江ノ島様子を見に行くとは死亡フラグみたいだが、無事に生還できて嬉しい限りである。
昼頃から雨風が強くなってくる。最も接近するのは21時ごろの予報。これがあと半日続くとなるとなかなかすごい規模の台風だ。
やる事がないので料理する。
非常食として2日前から仕込んで熟成させていた塩豚を茹でる。先日、奥さんが風邪気味で僕の帰りが遅かった時に、隣のマンションに住む義母が作り置きの煮物と一緒に、なぜか塊の豚ロース肉を置いていってくれたのだ。
一時間ほど茹でて塩気を抜き、お昼はこの茹で汁に野菜と素麺、ワンタンを入れてにゅうめんにして食す。豚肉の旨味がしっかり出ていて美味い。身体もポカポカしてくる。
午後は軽く仕事したり読書したり昼寝したり。何かしていてもついついスマホで各地の台風状況をチェックしてしまい落ち着かない。
とりあえず、食料、飲料水、生活用水、簡易トイレなどの災害用の備蓄はあるし、うちは崖や河川からも少し離れたマンションの3階なので急に大きな被害が出るとこは考えづらいのだが、心配は心配である。そわそわしながら午後を過ごす。
停電や断水すると困るので、夜は早めに風呂に入り食事も済ませておく。ちゃきちゃきと食事の用意。
焼いた塩豚のサラダ、白菜と春雨のスープ、白菜と豚肉、えのきの中華炒め、キンピラゴボウ。大葉の玉子焼き。なんとも健康的な食卓が出来上がる。
ラグビーワールドカップをテレビで観戦しながら食べる。避難することになるとマズイので飲み過ぎには注意である。
台風が近づいてくるにつれ、ゴウゴウと唸るような風音にマンション全体がグラグラと揺れて、締め切った雨戸がバタバタと鳴る。高速道路を軽自動車で爆走している時のような恐怖と不安感がある。10パーセントの興奮と30パーセントの不安と60パーセントの冷静さ。
試合を観戦しながらもスマホから手が離せない。ついつい台風関連情報を見てしまう。
・最寄りの河川の水位
・江ノ島ヨットハーバーのライブカメラ
・江ノ島の風速状況
・NHKの災害アプリ
・天気予報のアプリの台風進路情報
・twitterのタイムライン
10分おきくらいに気ぜわしく情報をチェックしながら台風が過ぎ去るのを待った。
台風が最も近づいだと思われる瞬間、江ノ島は40メートルを超える暴風だったようだ。車が横転する風である。
21時を過ぎると、一気に静かになってきた。なんとか耐えきったようだ。
翌日、近くのチームの方に確認してもらったところ、酷い風ではあったものの、江ノ島の僕らの艇は特に被害もなく無事のようであった。
その後、ニュースを見ると川の氾濫や冠水の被害も多数報告されており、被災された方や亡くなった方も多いようだ。災害被害の中で、呑気に江ノ島に行ったり料理してビールを飲んだりと申し訳ない気もするが、個人的な日記として残しておく。
亡くなった方の御冥福と、被災された方の一刻も早くの復旧をお祈りします。