太陽の下で笑う。

うまいものはうまい。

『パラサイト 半地下の家族』を観て格差と無意識の嘲笑の恐ろしさにおののく。

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22日土曜日、話題になっている『パラサイト 半地下の家族』を観てきた。内容がネタばれになるかもしれないので、一応断っておきます。

 

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なるほど傑作だった。話の導入もわかりやすく、それぞれのキャラクターもわかりやすく魅力的で、すんなりとストーリーに引き込まれていった。中盤まではコミカルな笑いあり、サスペンスドラマとしても申し分のない展開に時間を忘れて見入ってしまう。しかし最後はなんとも明るくなれない話でドスンと心にしこりを残したまま物語が終わる。見事である。

 

家族全員が失業中で、ピザの箱を折る内職でなんとか糊口をしのぎつつ、じめじめした半地下のカビ臭い家に住むキム一家。そして、山の手の豪華な邸宅に暮らす超富裕層のパク一家。その2つの家族を描くことで、韓国の行き過ぎた階級社会、資本主義社会を批判的に描いた話。かと思いきや、そこに存在を隠されていた地下の住人ががでてきて、単純でコミカルだった物語が深みに入っていく。

キム一家は存在を偽り、金持ち一家の家庭教師、運転手、家政婦と少しずつ寄生を成功させていく。それは非常に危ういバランスで成り立っており、そんな生活は絶対に長続きしない。観客がハラハラしながら見守っていると、地下の住人の登場でその生活に亀裂が生じ、物語の最後の事件に向けて一気に加速していく。

 

貧乏だけど家族想いで明るく笑って暮らす一家と、私服を肥やす強欲な金持ち一家という童話のような対比であればわかりやすいのだが、今回の物語はそうではない。金持ちの一家もまったく悪人ではないのだ。

ちょっと思い込みが強くて単純だけど、優しくて美人の奥さんと、イケメンでスマートで理想の父親をきっちり演じているIT社長の父親。端々に人を軽んじるような言動が見え隠れするものの、誰だってそんな一面は持っている。しかも直接本人に伝えない分別を持ち合わせている。お金に余裕があるからこそ、おおらかに優しく振舞えているようにも感じる。

 

ただ、階級の差が作り出した無意識の嘲笑のようなものが最後の最後である悲劇を生み出しているのは事実。なかなかに救えない幕引きである。それを格差のせいにするのか、被害者の無意識の態度のせいにするのか、加害者側の狂気のせいにするのか、あくまで成り行き上の凶行とするのか、嫌な余韻を残したまま物語を終える。

 

この映画を観ながら一番に感じたのは、そういった無意識の嘲笑というか、格差を感じさせる態度、鼻持ちならない態度というものは非常に危険だということだ。無意識に笑ったやつは覚えていないが、笑われたやつはいつまでもその事を覚えているものだ。無意識なだけにタチが悪い。

 

この映画でも、「におい」というものが重要なキーワードになっており、金持ちはジメジメした半地下に住む貧乏人の「におい」に生理的に不快感を示し、文字通り「鼻持ちならない」状態になるのだが、そういった態度が見え隠れする相手に対して、嘲笑された者は憎悪を募らせていくのだ。

もしかしたら、ぼくも無意識にそういった鼻持ちならない態度をとっているのかもしれない。ぼく自身は幸福にも、これまで比較的恵まれた経済環境で育ててもらっており、働き始めてからもギリギリの貧乏生活を送ることは無く、現在もちゃんと家族を養えるだけの稼ぎを得て暮らせている。その余裕が無意識の格差意識を生み出しているような気がするのだ。考えすぎだろうか。

 

今回の映画では、経済的な格差が心理的な格差を生み出しているのだが、経済的格差は遺伝や教育への投資、育っていく環境などの影響で、世帯を経るごとに拡大再生産されていく傾向にある。

もし今回の物語でキム一家とパク一家が交わることが無かったとしても、その息子世帯が格差を逆転させることは難しかっただろう。アメリカンドリームを夢見るのは自由だが、そんなに上手くはいかないものだ。だからこそリアルで恐ろしい物語になっている。

 

万引き家族

『ジョーカー』

『パラサイト 半地下の家族』

ここ数年で観た上記の3作品とも、貧困や格差、差別を虐げられているものの立場から描いた作品だが、どれもハッピーエンドにはならず、観客の心に大きなしこりを残して物語が終わる。こういった作品が生まれて支持されるということは、それだけ多くの人が無意識に課題を感じて恐れを持っているからだろう。

 

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余談だが、この日、午前中に『パラサイト』を観て、夕方から友人の結婚式だったのだが、新婦が絵に描いたような超富裕層のお嬢様で笑ってしまった。

・実家が東京都千代田区
・幼稚園から高校まで私立の有名なお嬢様学校
・中学からフランス語が堪能で有名大学のフランス語学科を主席で卒業
・趣味はバレエとペン習字(プロ級)、家族で毎年行くハワイ旅行
・一人っ子で結婚するまで同棲NG。しかも門限あり

 

もともと、5年くらい前から僕も知っている後輩で、優しくて非常にしっかりした子で育ちがいいな~と思っていたのだが、ここまでとは驚いた。そして少しもすれたところが無く、ご両親の愛情を一身に受けて純粋にまっすぐ育ったようないいところのお嬢様である。まさに才色兼備。ご結婚おめでとうございます。

 

午前中にパラサイトを観て、午後に、その映画の超富裕層の暮らしから抜け出してきたような結婚式に参列させていただき、現実と虚構の世界が混ざってしまったようでクラクラしてしまった。

 

おわり。