※写真は箱根彫刻の森美術館で本文とは関係ありません※
僕は花粉症である。
九州の片田舎出身なので花粉症などにはならないと思い込んでいたが、大学2年生あたりから症状が出始めて、今はすっかりマスクが手放せなくなっている。そう考えるともう15年くらいの付き合いな訳だ。ながい。
花粉症と関係あるのかないのか分からないのだが、ここ数日ずっと、鼻の中がカサブタになってしまい、違和感に悩まされている。鼻の中なので容易に剥がすこともできず、しかし完治もせずにずっとヒリヒリムズムズが続いており悩ましい。つい気になった掻いてしまったりするが、綺麗に剥がれることもなくカサブタが大きくなったり小さくなったりするだけで悩ましい。
何かに集中している時はしばし忘れることができるのだが、ふと気になるとムズムズが襲って来る。その繰り返しである。
ほんの小さなカサブタなのだが、気になってるその瞬間は最大の関心事になってしまう。仕事で大事な資料を作っている時も、後輩の相談に乗っている時も、仕事で学生と面談している時も、その一瞬は意識が鼻の穴の違和感に行ってしまうのだ。なんとも意志薄弱というかカサブタ強しというか、変な感じである。
指先の小さなアカギレなんかも同様に、ほんの弱い痛みだったりしても、気になるその瞬間は意識の大部分が持ってかれるのが凄い。身体からするとほんの小さな小さな数ミリのキズだったとしても、敏感な指先とかだとやっぱりチクチクと痛んだりして頻繁に気にしてしまい、そのせいで気分もどんよりと憂鬱になってしまったりもする。
以前生物の教科書で見た「ペンフィールドのホムンクルス」を思い出す。人間の脳の表面に、人体の各部位がどう対応しているのかを示した人形で、巨大な手指と巨大な顔の不気味な人形だ。この人形が示す通り、指先の感覚や顔の触覚痛覚は非常に繊細なので、ちょっとした傷や痛み、違和感でも強い影響を受けてしまうのだろう。
そう考えると小さな怪我や、頭痛や二日酔い、腰痛なども含めて、何も不快感のないクリアなコンディションって奇跡みたいだ。その時は別にどうとも思わないが、鼻の穴の違和感に意識を数パーセント持ってかれてる身からするとそう感じる。
全くもって身のない話をしているが、鼻の穴つながりでもうひとつ。
30代になったころから、鼻毛に白髪が混じりだした。髪の毛は一箇所だけ白髪が出やすい箇所はあるもののほとんど目立たないし、髭や眉毛、果ては陰毛なんかにも全く無いというのに。数えたわけでは無いのだが、鼻の毛だけが1割から2割くらいは白髪になってきているのだ。早すぎないか。
別に人に見せるものでも無いし、定期的にカットしているので全く問題は無いのだが、ひとつだけ困ったことがある。白い鼻毛は何故か、やたらにまっすぐで硬いのだ。魚釣りに使うナイロンのテグスの先を尖らせたようなイメージで、なんというか無機質な硬さと白さなのだ。自分の身体から生えてきたとは思えない無機質具合だ。
鼻の毛をカットしてしばらくたつと、そのまっすぐで硬い白鼻毛がすくすく伸びて、穴の対角線上の壁面をチクチクと刺激してしまう。またもや不快感である。頭のCPUが何パーセントか持っていかれる。そして僕はペンフィールドのホムンクルスとなり、大きな顔をくしゃくしゃにして鼻のムズムズに耐えしのびつつ仕事をするのだ。
白髪になるということは何らかの要因で色素の生成が阻害されるなど、黒髪よりも衰えていくのなら理解できるが、白髪の方が固くて元気というのはどういうことだ。わけがわからない。しかし、自分の鼻からこんなプラスチックみたいに無機質なものが生み出されていると思うと、違和感はあるが愉快な感じもある。
はなのなかのはなし。